シャルル・ド・ゴール空港からオランダ国境のリールへバスで移動。宿に着いてすぐ、電車でルーブル・ランス(Louvre Lens)に向かう…はずだった。出発前には分かっていたことでしたが、フランスは2018年4月から6月にかけて大規模なストに突入していました。そのため鉄道は運が良ければ乗れる、そうでなければ各自の努力でどうぞ!といった状況。やむなくタクシーを乗ることに。大体50分、ガンガンに飛ばす運転に耐えて辿りついたルーブル・ランス。SANAA設計によるパリのルーブル美術館の別館です。

レンガ造りの低い家が立ち並ぶランスの街並み。ランスはかつて炭鉱の街として栄え、ルーブル ランスも炭鉱の跡地に計画されました。

アルミ製の厚さ40cmはあろうかという門扉を通って長いアプローチを歩きます。

北東からのアプローチ。

美術館の全景。アルミの半艶の仕上げとガラスのボリュームが数珠つなぎに360mにわたって連なっているため相当に大きな建物なのだけど、高さが6mに抑えられているため、極端に横長のプロポーションの建物です。これほど不思議なスケール感の体験をしたことがあったか、ちょっと思い付かない。

アルミパネルは鈍く周囲の風景を映しこんでいて、建物の存在感を薄くさせながら、そこに映った像がもう一つ別の環境を作っているかのようです。雲の流れが早く、雨が降ったり晴れ上がったりという目まぐるしく変わる当日の天候の影響もあったと思います。

控えめな表情の建物とは対照的に、ランドスケープの床の表現がとにかく賑やかでした。砂利が敷かれ、多種多様な植物が植えられ、幾つもの築山や小さな池があったり。それでいて高さのある樹木が植えられていないため、建物への視線を遮ることが少なく、視界に入ってくるランドスケープと建物の情報のバランスが取れているという印象を受けました。Mosbach Paysagietesというフランスのランドスケープアーキテクトの手によるものです。建物の中へ入ります。

四角い大きなエントランスホールの中に丸い部屋が入れ子になっており、それぞれ受付、ショップ、レストランなどの機能があります。丸い部屋のガラス壁は天井まで達していないので、空間に奥行きを感じます。

全体の平面図。正方形に近い部屋がエントランスホール。おおよそ60m×70mあります。細長い部屋がギャラリーとなっていて、ゆるくカーブしながら連なっているのがわかります。

細長いメインギャラリーの様子。時のギャラリーと呼ばれており、奥に行くに従って新しい年代の美術品が展示されています。最も手前が紀元前3500年。幅方向は美術品が製作された地域で緩くゾーンに分けられています。美術品の横を通り過ぎるごとに時代を進んでいる実感があります。壮観であって、かつわかりやすい展示の仕方です。

このギャラリーのもう一つ特徴的なことは、人工照明を極力使わないで自然光で見せていることです。幅25mのギャラリーに掛け渡された1550mmピッチのルーバーは屋根の構造も兼ねており、全面のトップライトから自然光がふんだんに入ります。更に小さなブラインドで光量を制御する仕組みも備えており、自然光の下で美術品を鑑賞することに大きな価値が置かれています。自然光の下に置かれることによって、美術品に感じてしまうある種の権威のような印象が薄れて、気楽に鑑賞できてしまうのが不思議なものです。またギャラリー内部も外壁と同じアルミパネルで覆われていることは、外と同じような環境を内部にもつくりだしたいという意図を感じました。

とても清々しい空間で疲れを感じずに4時間くらい滞在したでしょうか。閉館間際に美術館を後にして、専用のシャトルバスに乗ります。帰りは電車が運行していました!ランスからリールまで約40分で1500円くらい。

リールの旧駅に戻ってきました。軽快な鋳鉄のアーチとガラスが作る綺麗な19世紀中頃の駅舎。2日目の旅程はこれで終了。