デッサウから戻ってきたその足で新博物館へ向かう。

正面に見えるのは旧国立美術館(Alte Nationalgalerie)。1876年、シュテューラー(Friedrich August Stuler)設計。
左手(西側)には新博物館(Neues Museum)。1855年、同じくシュテューラー設計による博物館は爆撃によって破壊されたままになっていたのをデヴィド・チッパーフィールド (David Chipperfield)が10年がかりで改修したものです。

建物の中心に位置する大きな階段室。破壊される前の設計を模写するのではなく、輪郭を再構築することをコンセプトとしています。

純粋な木造なのか鉄骨が使われているのかは判別ができないものの、焼失した木造の屋根架構も装飾を排して再建しています。

階段はザクセン州の大理石がまぶされたプレキャストコンクリートで作られています。同じ材料ながら人が触る手摺は磨いた仕上げとする一方で、背後の腰壁はラフな仕上げといった具合に使い分けることで、単調さを避けながら統一感をもたらしています。

屋根構造の多彩さもこの建物の見所です。建設当時、つまり19世紀の半ばは鋳鉄が建築に使われ始めた時代でもあり、まるで架構の実験でもしているかのように各部屋で異なった架構に鋳鉄が用いられています。

破壊された南側のドームは新しく作り変えられたもの。四角い部屋が次第に円形のドームに移り変わっていくレンガ積みの精度とその迫力にしばし呆然。

エジプト王妃ネフェルティティの胸像も見たところで(撮影厳禁)新博物館を後にしてベルリン・フィルハーモニーホールに移動します。

奥にハンス・シャロウン(Hans Scharoun)設計のベルリン・フィルハーモニーホール、手前にはミース・ファン・デル・ローエの新国立美術館(Neue Nationalgalerie)。道路を挟んだ手前にはベルリン州立図書館があり、一帯が文化地域となっています。

新国立美術館はあいにく2015年から続く大規模な改装中で、2019年に再開するとのこと。建物の結露がひどく作品を展示できるような状態ではなかったため、その改装をこれまたチッパーフィールドが手掛けています。ベルリンにおけるチッパーフィールド への信頼の篤さがわかります。

新国立美術館とフィルハーモニーホールの間の敷地にはH&deM設計による20世紀美術館(Museum des 20. Jahrhunderts)という建物が計画されています。

昼食。肉とポテトの料理が多い。

夕方の公演までの時間、ベルリン州立図書館で過ごします。フィルハーモニーホールを設計したハンス・シャロウンはこの図書館も手がけており、シャロウンが亡くなった6年後の1978年に完成しました。

書架エリアは週一回のツアーガイドで公開されているものの今日は開催日ではないため、ロビーを見て回ります。

奥に展開していく動線や光の抑揚が感じられて、ずっと滞在したくなる図書館だという印象を受けます。ナチスやその支持者によって大規模な焚書が行われた歴史を経験したドイツで、図書館はとても大きな意味を持つ公共施設です。映画「ベルリン天使の詩」では天使たちがこの図書館に訪れて、本を読む人々に穏やかに耳を傾ける印象的なシーンがありますが、裏側にはそうした誤った歴史を見つめ直すようなメッセージが込められています。また、映画ではモノクロの場面として登場するこの図書館は実際にはとてもカラフルで色のある光に満ちています。

図書館を出て、幹線道路越しにフィルハーモニーホールを眺めます。当初はこの幹線道路は図書館の東側を通るように計画されていたらしく、もしそれが実現していたら図書館とホールと美術館が車に邪魔されることなく一体的に使うことができていたはずです。こうしたところに土木と建築の世界の乖離を見てしまって残念。

開演時間も近づき、フィルハーモニーホールに入ります。庇はいびつな形で低く差し出された傘のよう。

外から続く石貼りの床に導かれるように入ります。

奥に向かってクロークが長く続き、さらにその奥に空間の広がりを感じさせます。

客席の真下の最も人溜まりができるホワイエ部分。いくつもの方向に架けられた階段。チケットを片手に思い思いのルートで客席にたどりつく過程が大切に考えられています。

見上げると各フロアで吹き抜けの形状が違うことがよくわかります。各フロアで待ち構えるスタッフの立ち姿が完璧。

見下げると宙に浮いた客席が視界を丁度よく遮っていて、奥行きを感じさせる重要な要素となっています。ホワイエが谷底のよう。

天井面は客席の躯体の形が多面体のまま現れていて、その量感をダイナミックに支持する斜め柱。足元にはバーカウンター。

2階の吹き抜けには斜めのトップライトがあり、谷底のようなホワイエに光を供給しています。
我々のチケットは最も安い席のため最上階にあり、客席までの長い道のりを楽しめました。そしてホールに足を踏み入れます。

ホールに入って感じたのは不思議な親密感でした。客席と演壇との近さ、木の葉のように細かく分散された客席、テントのように自然な弧を描いて架かる天井。堅苦しさを少しも感じさせない自然体で音楽を楽しむための空間が用意されていました。

演目は『戦争のレクイエム』という楽曲で、独唱や児童合唱が途中に組み込まれたかなり複雑な構成。演奏するのは高校生までの若者で、将来を期待されてベルリン・フィルハーモニーから奨学金を受けているそうです。

演奏後、涙を見せながらお互いを称えあっている様子からこの演奏にかける思いが伝わってきました。

3日間のベルリン滞在もあっという間に過ぎてしまう。明日からまた移動が続きます。